LINEヤフー株式会社 (CLOVA Voice / CLOVA Speech)¶
1 行サマリー¶
日本最大級のインターネット企業が内製 TTS/ASR エンジンを B2B API として公開し、自社サービスにも横展開する垂直統合型音声 AI プレーヤー。
ビジネスモデル¶
LINEヤフーの音声合成・音声認識事業は、独自エンジン「Achoris」(TTS) と CLOVA Speech (ASR) を中核に据えた B2B API/PaaS モデルで運営される。収益源は CLOVA Voice・CLOVA Speech の API 従量課金で、コールセンター自動化・会議文字起こし・デジタルサイネージ等の企業システムへの組み込みを主な用途とする。
料金体系は非公開(問い合わせ型)で、CLOVA OCR のような一部製品に限り料金プランが公表されている。音声関連製品は大口エンタープライズ向けの個別契約形態が中心と推定される。
グループ内では Yahoo! カーナビに 2024 年 7 月からオンデバイス軽量ニューラル TTS を搭載し、クラウド依存なしの車載応用を展開。外販 API と内部活用の二本立て構造が特徴で、研究成果を自社サービスで実証→外販というフライホイールを回す。
コンシューマー向け AI スピーカー (CLOVA Friends 等) は 2023 年に完全撤退済みで、残存する音声ビジネスは純粋に B2B API と社内デプロイに絞られている。
売上・利益・財務ハイライト¶
連結 (IFRS) — 2026 年 3 月期 (2025 年度通期)
| 指標 | 金額 | 前年比 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 2 兆 363 億円 | +6.2% |
| 営業利益 | 3,413 億円 | +8.3% |
| 純利益 | 1,936 億円 | +26.2% |
| 調整後 EBITDA | 4,966 億円 | +5.5% |
出典: 2026 年 3 月期 決算短信 (2026-05-08 開示)。
注意事項: 上記は LINEヤフー連結全体の数値であり、音声合成事業 (CLOVA Voice / CLOVA Speech) 単独のセグメント売上は非開示。同社は「戦略事業」「コマース・広告・メディア」等のセグメントで開示しており、CLOVA 音声事業は独立したセグメントとして切り出されていない。音声事業単独の規模感は非公開。連結従業員数は 2025 年 3 月時点で 27,003 名 (有報記載値)。
沿革・撤退事業¶
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1996 | ヤフー株式会社設立 (Yahoo, Inc. とソフトバンクの合弁) |
| 2000 | NAVER Japan 設立 (後の LINE Corporation の源流) |
| 2011 | LINE メッセンジャーサービス開始 |
| 2017 | LINE CLOVA を Mobile World Congress で発表。AI スピーカー「CLOVA Friends」発売 |
| 2019 | Z Holdings 株式会社 (旧ヤフー) と LINE が経営統合に向け協議開始 |
| 2021 | Z Holdings・LINE・ヤフーの三社統合完了 (Zホールディングス傘下に LINE) |
| 2022-10 | CLOVA コンシューマー向けスマートスピーカーの端末販売終了 |
| 2023-03 | LINE CLOVA コンシューマー AI アシスタントサービス終了 |
| 2023-04 | LINE AiCall・CLOVA Note B2B 事業を LINE WORKS 株式会社へ事業継承 |
| 2023-10 | Z Holdings・LINE・ヤフー等が合併し「LINEヤフー株式会社」(LY Corporation) 発足。東証プライム 4689 として上場継続 |
| 2024-07 | Yahoo! カーナビにオンデバイス型軽量ニューラル TTS を搭載 (社内研究成果の初量産適用) |
| 2025-10 | 組織をカンパニー制からドメイン制に移行。音声 AI は Speech and Acoustic AI 部が研究・開発を継続 |
| 2026 | 川邊健太郎会長が定時株主総会終結時に退任予定。出澤剛社長 CEO が引き続き経営を担う |
撤退事業 (音声関連): - CLOVA コンシューマー AI スピーカー事業 — 2023 年 3 月終了。端末は CLOVA Friends シリーズ。スマートスピーカー市場での競合激化 (Amazon Echo・Google Home) および採算悪化が理由とされる。 - LINE AiCall / CLOVA Note — 2023 年 4 月に LINE WORKS 株式会社へ移管。LINEヤフー本体からは撤退したが、サービス自体は LINE WORKS AiCall / AiNote として継続中。
主要メンバー¶
| 役職 | 氏名 | 備考 |
|---|---|---|
| 代表取締役社長 CEO | 出澤剛 | 2023 年の統合以降一貫して代表を務める |
| 取締役 CFO | 坂上亮介 | 2026 年 4 月体制 |
| 上級執行役員 CTO | 朴イビン | 2026 年 4 月体制 |
| CPO | 慎ジュンホ | 2026 年 4 月体制 |
| Speech and Acoustic AI 部 部長 | 三宅純平 | 2009 年からヤフーで音声認識研究に従事 |
| 音声認識・LLM 音声対話 | 木下泰輝 | 音声認識システムおよび LLM 音声対話システムの実用化担当 |
ピッチ・資金調達履歴¶
LINEヤフーは東証プライム上場企業 (証券コード 4689) であり、外部 VC からのシード/シリーズ調達は行っていない。資本市場からの調達手段は株式・社債を通じた公開市場取引。
- 1996-01 ヤフー株式会社設立 (ソフトバンクと Yahoo, Inc. が共同出資)
- 1997 ヤフー株式会社が日本初のインターネット企業として店頭公開 (後に東証一部上場)
- 2021 Z Holdings・LINE の経営統合完了。LINE の韓国 NAVER との資本関係が継続
- 2023-10 LINEヤフー株式会社として再上場形態を維持。親会社は A Holdings (ソフトバンク + NAVER の合弁)
- 2026 子会社 PayPay が NASDAQ 市場に上場 (グループとしての資本戦略の一環)
関連プロダクト¶
| プロダクト | 概要 |
|---|---|
| CLOVA Voice | B2B 向けクラウド型 TTS (音声合成) API。男女 17 名のプリセット話者、7 種類の感情スタイル、感情強度制御に対応。自社エンジン「Achoris」を使用し 10 秒〜3 時間の音声から話者クローンも生成可能 |
| CLOVA Speech | 日本語・韓国語特化の B2B 向けクラウド型 ASR (自動音声認識) API。リアルタイム認識と長時間バッチ変換の二モデル構成。カスタム辞書対応 |
| Yahoo! カーナビ (オンデバイス TTS) | 2024 年 7 月から搭載した軽量ニューラル TTS。RNN-Transducer ベースの ASR モデルも搭載し、オフライン環境での音声案内を実現 |
| LINE WORKS AiCall (移管済み) | 電話応対 AI。2023 年に LINE WORKS 株式会社へ事業継承済み |
| HyperCLOVA | NAVER と共同開発した日本語特化 LLM 基盤モデル。音声対話 (SLM) との統合を研究中 |
uPiper との位置関係¶
判定: 競合 (クラウド側) / 補完 (エコシステム側)
CLOVA Voice はクラウド API 型の商用 TTS であり、uPiper (StyleTTS2/Kokoro 系のオンデバイス軽量 TTS + Unity SDK) とは展開形態・ターゲットが異なる。uPiper の核心価値はモバイル端末上でのリアルタイム推論・ゼロ通信コスト・ライセンス料なしのライフスタイルビジネス構造にある。一方 CLOVA Voice は API 従量課金・クラウド依存で、音質や話者バリエーションを強みとするエンタープライズ向け製品だ。
ただしオンデバイス TTS の軸では接近する。LINEヤフーは 2024 年に Yahoo! カーナビへオンデバイス TTS を搭載しており、技術方向としては uPiper と同じベクトルを向いている。しかし LINEヤフーはその成果を外販 SDK 化しておらず、Unity エコシステムへの接続も持たない。つまり「ゲームエンジン統合型の軽量 TTS SDK」という uPiper の土俵には現在参入していない。
差別化フック: uPiper は「Unity SDK + 日本語特化 + オンデバイス完結 + インディースタジオが買い切れる価格帯」という組み合わせを持つ。これは LINEヤフー CLOVA Voice が提供しない象限であり、正面競合を避けた補完的ポジションが成立する。CLOVA のエンタープライズ向け API と uPiper のデベロッパー向け SDK は顧客層が重複しにくく、連携 (CLOVA 音声素材の uPiper クローン化等) を含めた共存余地がある。