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株式会社オルツ

1 行サマリー

P.A.I.(パーソナル人工知能)・AIクローンを掲げ東証グロース上場を果たしたが、売上の9割が架空の循環取引と判明し経営陣が逮捕・会社清算に至ったAIベンチャー。

ビジネスモデル

オルツは「非生産的労働からの解放」をミッションに掲げ、個人の意図・性格をデジタル化した「P.A.I.(Personal Artificial Intelligence)」技術を核に、二本柱で事業を展開していた。AI Products事業では音声認識議事録SaaS「AI GIJIROKU」、ボイスボット型「AIコールセンター」、ノーコード生成AIプラットフォーム「altBRAIN」を月額SaSS・API課金で提供。AI Solutions事業ではAIクローン構築・コンサルティングを企業向けに受託した。

音声合成(TTS)については、自社大規模言語モデル「LHTM-2」(GPT-3同水準パラメータ)を開発し、株式会社エーアイ(AITalk)と業務連携して音声合成機能を補完する形を採った。完全内製TTSエンジンという主張は一部プレスリリースに存在するが、実態は外部パートナー依存であった可能性が高い。

なお、開示されていた売上高の最大91%が循環取引による架空計上であったことが後に判明しており、実質的な事業規模は公表値と大きく乖離していた。

売上・利益・財務ハイライト

実態ベース(訂正後概算)

開示売上高 架空計上率 実態売上(概算) 営業損益
2022年12月期 約26億円 91.3% 約2.3億円 非公開
2023年12月期 約41億円 91.0% 約3.7億円 非公開
2024年12月期 約60億円 82.0% 約10.8億円 非公開

Wikipediaおよびニュース報道によれば、2024年12月期の訂正後売上高は約8億7,590万円、営業損失は約19億5,948万円、当期純損失は約29億3,942万円とされる(この数値自体が精査前の可能性あり)。IPO調達額は約55億8,900万円。民事再生申請時点の負債総額は約24億円。

ポイント:2021年6月〜2024年12月にかけて売上合計119億円・広告宣伝費115億円・研究開発費13億円が過大計上。不正手口は広告代理店4社に138億円を支出し、その資金を迂回させて売上代金に見せかける循環取引だった。

沿革・撤退事業

年月 出来事
2014年11月 東京都江東区にて設立。創業者は元メディアドゥ取締役の米倉千貴(本名:姜千貴)
2016年2月 Series A 約6億円(ジャフコリード)
2017年7月 内部音声合成技術を確立(と称する)
2017年8月 Series B 約6億円
2018年6月 経済産業省「J-Startup」選出。「P.A.I.」商標取得
2018年12月 Series C 約13億円(SBIインベストメント等)
2019年 本社を東京都港区に移転
2020年1月 主力SaaS「AI GIJIROKU」の提供開始
2021年9月 独自大規模言語モデル「LHTM」発表
2021年以降 循環取引による架空売上の計上を開始(後の調査で判明)
2022年5月 Series D 約42億円(Vertex/テマセク系リード)、累計約61億円
2023年2月 LHTM の後継「LHTM-2」発表(GPT-3同水準と主張)
2023年9月 19億円追加調達(デット含む)。累計約80億円
2024年10月11日 東証グロース上場(260A)、初値570円、時価総額一時240億円超
2025年4月27日 SESC(証券取引等監視委員会)が強制調査を実施。株価急落
2025年7月28日 第三者委員会報告書公表。2021年以降119億円の過大計上が確定
2025年7月30日 東京地裁へ民事再生申請・受理。米倉社長は引責辞任
2025年8月31日 東証グロース上場廃止(上場時価総額の約100分の1に縮小)
2025年10月9日 元社長・米倉ら旧経営陣4名、金融商品取引法違反で逮捕
2025年10月29日 米倉ら4名および法人が起訴(粉飾額111億円)
2025年12月 債権者集会にて会社清算方針を決議
2026年2月2日 再生計画認可決定確定(公式サイトに掲載)
2026年5月25日 東京地裁、元幹部2名に懲役3年・執行猶予4年判決。法人に罰金3億円

撤退・消滅事業:AI GIJIROKU、AIコールセンター、altBRAIN、CLONEdev、LHTM-2を含む全事業が2025年末までに事実上停止。内部告発は上場前から存在したが黙殺された(日経報道)。

主要メンバー

氏名 役職 備考
米倉千貴 (本名: 姜千貴) 創業者・代表取締役社長(2014〜2025年4月) 元メディアドゥ取締役、元未来少年代表。2025年10月逮捕・起訴
日置友輔 取締役CFO → 後継社長(2025年4〜7月) CFOから社長就任後、同年10月逮捕
西村祥一 CTO(上場時点) P.A.I.・altTalk技術の責任者。上場会見でAIクローンが代読対応
西川仁 執行役員CTO(初期) 初期技術体制を担当

ピッチ・資金調達履歴

年月 イベント / ラウンド 概要
2016年2月 Series A 約6億円、ジャフコグループリード
2017年8月 Series B 約6億円
2018年6月 J-Startup 選出 経産省による注目スタートアップ認定
2018年12月 Series C 約13億円、SBIインベストメント等
2022年5月 Series D 約42億円、Vertex(テマセク系)リード
2023年9月 ブリッジラウンド(デット含む) 約19億円、近鉄VP・ヒューリック・キーエンス・ENEOSイノベーションパートナーズ等。累計約80億円
2024年10月11日 東証グロース IPO (260A) 公開価格540円、初値570円、IPO調達55億8,900万円

ICC・IVS・B Dash等の具体的なカタパルト登壇記録は公開情報から確認できなかった。2023年5月に自社主催「オルツカンファレンス2023」を開催し、成田悠輔・落合陽一ら著名人が登壇。

関連プロダクト

プロダクト 概要
AI GIJIROKU 音声認識を活用した議事録自動作成SaaS。主力収益源(ただし売上の大部分が架空と判明)
CLONEdev 個人の性格・意図を学習して代理業務を行う「デジタルクローン」生成プラットフォーム
altTalk 0.53秒応答を謳う超高速AI音声対話システム
AIコールセンター 24時間無人対応のボイスボット型コールセンターSaaS
altBRAIN ノーコードで生成AIを業務フローに組み込めるプラットフォーム
LHTM-2 自社開発大規模言語モデル(GPT-3同水準パラメータと主張)。エーアイ社のAITalkと連携して音声合成機能を補完
Polloq 人工自律型エージェント(詳細は非公開)

uPiper との位置関係

判定:競合ではなく、参照すべき反面教訓(事業上は無関係)

uPiper はStyleTTS2/Kokoro 系の日本語特化軽量 TTS エンジンとUnity SDK を組み合わせ、モバイルオンデバイス推論でライフスタイルビジネスとして展開する製品である。オルツはTTSを内製技術の柱として標榜したが、実態は外部の株式会社エーアイ(AITalk)に音声合成を依存しており、独立したTTSコアは持っていなかった。主力収益はSaaSとソリューション受託であり、デバイスサイド推論・SDK販売という uPiper の軸とは事業構造が根本的に異なる。

差別化フックとして有効な論点は「信頼性とガバナンス」である。オルツは上場後10ヶ月で崩壊したが、その根因は技術の劣後ではなく財務不正と上場審査の形骸化だった。uPiper がオンデバイスでクローズドな推論を提供する設計は、クラウド型サービスが持つ帳票リスク(架空売上・API依存)とは無縁であり、軽量・オフライン・SDK課金というビジネス形態の健全性を訴求する対比材料として機能する。オルツのケースは、AI音声関連で「事業規模より事業の実在性」が問われる時代になったことを市場に示した事例として位置づけられる。